制作秘話 of 究極の愛について語るときに僕たちの語ること

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制作秘話

Episode3 愛は、青い鳥のごとく

 メーテルリンクの『青い鳥』で、チルチルとミチルは幸福を探す旅に出た。僕と編集者が一年弱かけて行った“愛を探す旅”も、少しは『青い鳥』に近いところがあるのかもしれない。愛とはパートナー(あるいは対象物)がいて初めて成立する概念だが、僕はそれを編集者というパートナーと共に探しに行ったわけだ。
 僕がフリーの物書きになって四年半ほど経つ。その間、様々な仕事を、様々な編集者と行ってきた。何年も一緒に仕事をしている編集者もいれば、一度仕事をしたきり関係が途絶えた編集者もいる。性格、スキル、経験、考え方、感性など、あらゆる面を含めて、合う合わないがあるのは当然だ。こればっかりは相性としか言いようがない。
例えば、僕にとってものすごく相性のいい編集者がいる。一緒に取材に行くと、基本的に僕が主導でインタビューをするのだが、話の内容を整理したいときなど、一瞬間を置きたいときがある。とはいえ取材中なので、長い時間沈黙を作るわけにはいかない。そんな状況を編集者は的確に察知し、それまで黙っていたのが、僕に代わって質問を始める。その間に僕は頭を整理し、すっきりした状態でインタビューを再開できるのだ。アイコンタクトだけで通じ合うようスポーツ選手のように、物書きと編集者の間にもチームワークがあり、それ次第では一×一が四にも五にも、あるいは十にも百にもなる。
『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』で組んだ編集者“ショーン”は、プライベートでは知っている仲なのだが、ビジネスパートナーとして組むのは初めてだった。これまでの関係は、ある意味でリセットしてからのスタートだった。本の打ち合わせをしたり、取材を進めたりする一方で、僕たちは互いについても探り合っていた。いい本を作るためには、一×一が一の状態ではいけない。少しでも互いの持つ強みが発揮され、相乗効果が生まれるような関係性、方法、進め方などを見つけようとしていたのだ。
 本書ができるまでに、僕と編集者はときに議論し、ぶつかり、励まし合い、たたえ合った。愛の物語の裏で、物書きと編集者というパートナーがどんな関係性を築いたのか。全ての結果は本書に詰まっている。

著者 コエヌマカズユキ



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Episode2 ストーリーテラーたち


最初の取材は5月中旬、最後の取材は10月末。
半年も、ふたりで取材をしていた。
なかなか理想の取材相手が見つからなかったり、断られたりして、予想以上に時間がかかった。
1回の取材は、平均して3時間ほど。
長いように思えるが、実際にやってみるとあっという間だ。
毎回こちらの予想を軽く飛び越えてしまう話を聞くのは、とても面白い体験である。
『西の国のプレイボーイ』で有名なJ.M.シングは、民話収集のためにアイルランド西部にあるアラン島へ単身出向き、そこで数多くの話を聞いたという。
それらは『アラン島』としてまとめられたほか、彼の主要な戯曲に大きな影響を与えた。
そんなシングのことを、私は取材中よく考えていた。
アラン島に関する描写の合間に出てくる、現地の人びとのストーリーテリング。
この本も、雰囲気はだいぶ違うけれど、それぞれの「語り」を大事にしたいと思ったのだ。
アラン島には当時、テレビもラジオもなかった。そんななかで、一番根っこにある娯楽こそが、語りだったのだ。
(余談だが、アメリカでは、もしかしたらそれに相当するのは映画なのかもしれないと、だいぶ前にポール・オースター『幻影の書』を読んだときに感じた)
そんな魅力的な言葉を、現代の日本でも紡ぐことができたなら。
そんな気持ちで、私は取材に臨んでいた。

編集担当 ショーン



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Episode 1 企画のはじまり


『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』
そんな名前の単行本企画が通ったのは、確か2013年の3月だった。
レイモンド・カーヴァーの短編小説に乗っかったタイトルだが、小説ではない。ノンフィクションだ。
愛には、正解なんてない。
こうしなければいけないというのも、多分ない。
相手が異性でも同性でも構わないし、どんなに遠く離れた場所に住んでいたっていい。
当事者がベストだと思えば、それでいいのだ。
西から太陽がのぼったっていいのだ。
なのに、「ふつう」の恋愛ばかりが話題になり、「純愛」という言葉が安売りされる現状。
完全にストレートな私でも、最近のそんな傾向にうんざりしていた。
だから、もっともっと、いろいろな愛のかたちを見てみたくなったのだ。

執筆者は、はじめからこのひとで行こうと決めていた。
コエヌマカズユキ。
ジャーナリストであり、新宿ゴールデン街にあるプチ文壇バー「月に吠える」のマスターだ。
もともと知り合いだったこともあり、彼のことはよく知っていた。
ストレートでありながら、仕事が終わるとひとりでおかまバーに繰り出すことや、女装界隈、ニューハーフ界隈とも親交があることも。
そして、毎晩店に立ちながら、客の恋愛話に、本気で耳を傾けていることも。
裏社会の人の、風俗嬢の、チェリーボーイの。彼らすべての恋愛を、受け止めていた。
彼なら、面白がってくれる。そして、本気で取り組んでくれる。
幸い、彼もこの企画に興味を持ち、快諾してくれた。
多分、すぐ取材候補者は見つかるだろう。半年後くらいには出せるだろう。
そんな話をした。
それが、コエヌマカズユキの「究極の愛」をめぐる、長い冒険のはじまりだった。

編集担当 ショーン



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